いつか終わるその時すらも、私はあなたと幸せでありたい。
大塚紗英の最新曲「どんな言語よりそれはアイラブユー。」は「言葉や種族を超えた愛」をフュージョン×シンセサウンドで表現したミディアムナンバー。死や別れは人や動物、その他命を持ったすべてのものが避けられないことである。その死に対して悲観的になるのではなく、命が尽きるその時まで、そしてその時ですら愛を持って迎えたい、ということを歌った楽曲。
そんな深い愛を大塚らしい熱量のある声色で表現した。昨今のメジャーシーンの楽曲群と比較すると、非常に熱量が高く、感情が剥き出しとなった歌唱であるように思われる。しかしながらこれがまさしくアーティスト大塚紗英の本質である。歌詞は思想であり、その思想を伝えるのが彼女にとっての歌である。シンガーとしての技量や表現力が多分に発揮された楽曲となった。
また本曲ではシンガーとしてのみならず、ソングライターとしての才も光る。テーマとしては非常にありふれた日常のワンシーンでありながらも、その類稀なるワードチョイスゆえ、ただの陳腐な楽曲とならず、その日常があたかも存在していて、まるで自分ごとのように思わされる。また通常であれば、1サビの後には2番が来るが、本楽曲には2番が存在しておらず、Dメロに進むという奇抜な構成になっている。構成としてはやや突飛だが、それでもなお飽きさせない起伏に富んだメロディゆえ、この曲は一貫したポップさを保つことができている。
今回のサウンドのテーマは前作「恋人じゃない何か」に引き続き、本格的なジャズ・フュージョンサウンド。かつて一世を風靡したスウェーデン発のポップ・ロック・バンド「Dirty Loops」から着想を得て、それをJ-popとして仕上げたのが本曲となっている。大塚のもつポップなメロディセンスの中に隠されたジャジーな一面を拾い上げ、それを全面的にサウンドとして昇華した意欲的な作品に。そんな複雑ながらも一貫したポップさを持ったアレンジを施したのは日本のポップシーンを牽引してきたアレンジャー・石塚知生氏。フュージョンらしい複雑なコードワークやキメ、そしてエッジの効いたシンセサウンドで本格的なフュージョン感を演出しつつも、ポップスとして非常に聴き心地の良いものとなっているのは、音楽に造詣が深く、かつ歌詞の世界観を巧みに落とし込む技量を持っている鬼才 石塚氏だからこそできることだろう。
本曲はJ-popファンはもちろんのこと、ジャズ・フュージョンなど、インストゥルメンタル音楽を愛する音楽ファンにも聴いていただきたい一曲となっている。